ベルを鳴らして女中を呼びました。
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「おやおっきでございますか寿江子様。
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女は愛素よく子供の足元にある乳を暖めてやりながら、雪が積る程降って居る事、英男の工合の大変好い事を告げて、
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「お嬢様もっとお寝みなさいませよ、
まだ九時でございます。
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と云います。
生返事をしながら彼女は足の踵がどことなし痛い事、頭の奥がはっきりしない事を思って居ました。
今年九つになって可愛い利口な弟の英男はこの月始めから高い熱を出して床に就いて居るのです。
肺炎だろうと云う人もありインフルエンザだと云う人もあるのですけれ共臆病になって居る家の者達は、皆それ等の病名に安心しないので――そうではないと思って居たいので――一週間高熱の続いた事は何病とは明かに云われて居ないのです。
熱の高低が激しくて看護婦のつける温度表には随分激しい山がたが描かれて居るので彼女と両親は夜も寝ないで心配を仕つづけて来ました。
大柄だと云ってもまだやっと満七つと幾月と云う体なのですものそこへ三つも氷嚢をあてて胸に大きな湿布を巻
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