き付けられながら西洋人の様に聰明らしく大きな目で白い壁の天井をマジマジと眺め、
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「お母様、顔があつい、
病気してつまらないわねえ。
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等と心から淋しそうに云って居るのを見ると、幾分の甘えと我儘の含まれて居る事は分って居るのですけれ共可哀そうがらずには居られなく成りました。
彼女にはこの病児にどれ位母親が頼りであり輝きであるかと云う事はよく分って居ました。
平常から非常に母に対して情深い子で、人混みの中や等に出ると、その小さい手と足で自分の至大な母に迫って来る乱暴者をつけのけ様とし、顔を赤くし、小さい唇を噛[#「噛」に「(ママ)」の注記]いしばって、自分の力の充分でない事を悲しみながら尊い努力を仕つづけるのです。
自分より幾倍かの容積と重量の母を外出の時はきっと保護し迫害者を追いしりぞかすべき騎士の役をつとめるのでした。
彼は自分の母親の普通に立ちまさった外形と頭脳を持って居る事を確信し、自分に対しては何処までも誠実であり純であると云う事も年不相応な比較力で見知って居るのでした。
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「自分は母様の子である。
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