らしくテーブルの傍に腰かけて忘れ物を仕た様な顔で頬杖を突いて居ました。
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「英男さんが好いんですってねえ、
 何てよかったのでしょう。
「ほんとにねえ、
 今日はまあ六度六分になったのだよ。
 昨日一日彼那だったので私はまあどれ程案じたか知れやしない。
 ああ、ああよかった。
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 かなり長い間の心労に安心が出て母はぐったりした様にして居ます。
 彼女はその様子に一層気のたるんだのを感じながら、ストーブの石炭からポッカリ、ポッカリ暖い焔の立つ広い部屋の裸の卓子に向い合ってまじまじと座って居ました。
 外の雪の音は厚い硝子に距てられて少しも聞えません。
 非常に静かな部屋の中に二つの心は、安心し、疲れ、嬉しがりながらがっかりして口も利かずに見合って居るのでした。
 午後になっても夕方になっても熱は出ません。
 彼女は益々安心して益々過敏になりました。
 斯う云う時の癖で暗い所に非常な不安を感じ食堂の大窓に掛けられてある薄樺の地に海老茶、藍、緑で細かく沢山な花模様に成って居るカーテンに目の廻る様な気持になりました。
 彼女は呆やりストーブの傍の椅
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