さんはそちらではありませんか。もしまだなら、見ていらっしゃい。今にきっと行くでしょう。そういう意味の文句がかかれていた。素子にひかれてゆく自分の感情の性質をしらべようとしていなかった伸子には、その文句のわけがよくわからなかった。なぜ吉見は、この田舎へ来るだろうと、わざわざ佐保子が予言するのか、そして、その予言にどういう意味がふくまれているのか。伸子は、佐保子にしては珍しいハガキと思って見ただけだった。楢崎佐保子は、素子が専門学校の生徒だった頃から知っているのであった。
吉見素子は、佐保子の予言どおり、やがてその田舎の家へ来た。四五日一緒に伸子と暮した。五月で、夜どおしよしきり[#「よしきり」に傍点]が鳴いた。桐の花の咲いている田舎の家の日々は、佃との苦しい葛藤のうちに閉塞されていた二十六歳の伸子の、生活をよろこびたのしみたい慾望を開放した。単調な田舎の一日だのに、素子はおやつをたべるにしてもいろいろ変化をつけ、伸子はそんな場合、お客のようになった。そしてこういう暮しかたもあるかと珍しがった。
素子が東京へかえり、やがて伸子も動坂へかえって、二人の間には一緒に生活する相談がもち上った
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