を感じさせた。佃との生活が、破壊の一歩手前まで来ていた伸子には、佐保子から話された素子の一人ぐらしの生活ぶりも、女が主人となって暮している生活として印象ぶかく、羨しく思えた。伸子は、うちに落ちついていられなくなっている心を、単純に、せっかちに素子に繋いだ。散歩だとか小旅行だとかの習慣をもたない伸子は、素子に誘われて日比谷公園で鶴の噴水を見ながら実朝の和歌の話をしたりした。その歌の話から鎌倉へ遊びに行った。そういう時の素子は、女にこんなひとがあるかとおどろくほど主動的で、つれへのいたわりがゆきとどいて、伸子は楽しかった。実朝のうたの話をしていたとき、伸子はどうした拍子か為朝といいまちがえ、二三度そういってから自分で気がついた。
「あら、わたし為朝っていってやしなかったこと?」
 そういって伸子は顔をあかくした。
「どっちだっていいじゃありませんか、わかっているんだから……ちょっとごたついただけですよ」
 そういって素子は、伸子のばつの悪さを救った。
 伸子が、二度と佃の家へはかえらない決心をして、祖母が暮していた東北の田舎の家へ行った。そのとき、おっかけて楢崎佐保子からハガキが来た。吉見
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