前の声で皮肉に落ちついて、
「まあ心配してくれなくてもようござんすよ。わたしは、ともかく、男が女に惚れるように、女に惚れるんだから……」
「いや、どうも……何だか失敬なようなことになっちまって……」
 その話はそれぎりになった。
 素子が、伸子をはじめて体裁屋といったのは、そのときだった。
「なんだい、ぶこちゃん、どうして、夫婦のように暮しているのによけいな世話をやくなっていってやらないんだ、体裁屋!」
 しかし、伸子は、
「だって……」
 あの男のほのめかしたのは、どんなことだったのだろう。疑いをまだその目の底に湛えて、むしろ訴えるように素子を見あげながら、
「――ちがう……」
といった。
「だからさ。ああいう奴には、ざっぷり冷水をあびせてやるに限るんだよ。二人が暮している以上、いいたいことはいわしとく位の実意がなくてどうするのさ」
 三年前、文学上の先輩である楢崎佐保子のところで、伸子は偶然来あわせた吉見素子に紹介された。素子の小麦色のきめのこまかい棗形の顔や、上まぶたの弓なりに張った眼。縞の着物と羽織とを着て、帯や帯どめに小味な趣味を示していた素子は、日頃友人のすくない伸子に魅力
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