二つの庭
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)筍《たけのこ》

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)段々|生垣《いけがき》や、

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号)
(例)ナジモ※[#濁点付き片仮名「ワ」、1−7−82]
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        一

 隣の家の篠竹が根をはって、こちらの通路へほそい筍《たけのこ》を生やしている。そこの竹垣について曲ると、いつになく正面の車庫の戸があけはなされていた。自動車の掃除最中らしいのに、人の姿はなくて、トタン張りの壁に裸電燈が一つ、陰気にぼんやり灯っている。
 伸子はけげんそうな顔で内玄関へ通じるその石敷道を歩いて行った。すると、ゆずり葉の枝のさし出た内庭の垣の角から、ひょっこり江田が姿をあらわした。おさがりの細かい格子のハンティングをかぶって、ゴム長をはき、シャツの腕をまくり上げた手に大きいなめし革の艶出し雑巾をにぎっている。江田は、伸子を見ると、
「や、いらっしゃいまし」
 ハンティングをぬいで頭を下げた。

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