れていいじゃあないか。――自分ばかりいい子になろうとなんかしなくたっていいんだ、水臭い」
とよ[#「とよ」に傍点]が台所で大根を刻んでいる、こまかくせわしいその庖丁の音をききながら、伸子は卓の上に頬杖をつき、こまかい雨の中にくれかかる夕暮の広い庭を見ていた。雨にぬれる雑草の中の萩の枝や遠くの生垣が、伸子の眼に浮ぶ薄い涙をとおしてよけい水っぽく見えている。
これまでも、素子は二三度、なんだ、体裁屋! と罵って伸子を非難した。伸子は自分の性質に素子よりもよけいそういう俗っぽさがあるらしいということは理解出来た。ひとがどう思ったってかまわない。素子はほんとにそういう生活態度であった。伸子も、ひとの思惑を気づかって生きられないたちであった。けれども、伸子としては、ひとがどう思う、こう思う、ということのほかに、自分としてそれはいやなこと、ということがあった。そしてそれは、ひとがどう思う思わないにかかわらず、自分としていやなことなのであった。
二人が一緒に生活しはじめて間もないころのことであった。素子のふるい友人で記者あがりの男が遊びに来た。そして、その時分から目立ったある婦人作家の女同士の
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