唐辛子、ぬいだんでしょう? だからゼーゼーになったんでしょう?」
 よわいつや子は冬から春にかけて、いつも赤い毛糸でこしらえた下着をきせられていた。つや子ちゃんの唐辛子は佐々の名物で、小学三年になったつや子はそれをきまりわるがった。
「僕、もう唐辛子きないでいいのよ、ずっと前ぬいだんですもの」
 兄たちばかりのなかに育って、つや子は僕、僕、といった。蒲団のまわりに、南京玉の箱や色紙がちらばっている。賑やかな日向の色どりの中につや子の稚い顔は蒼ぐろく小さかった。
「大きいお兄さまは? お留守?」
「うん」
「おかえりになりますでしょう。飯倉へ御電話かけましたから」
 お志保さんは、飯倉という響を何となし特別にいった。その伯父の家には冬子と小枝という従妹たちがいて、和一郎はよく泊りがけで行っているのであった。
「保ちゃんは? 御勉強?」
 つや子は、
「うん」
 自分が学校をやすんでいるつや子は声よりもよけいつよく合点して、首をすくめるようにした。
「ちょいと保ちゃん見て来るわ、そしたらまた遊びましょう、ね」
 同じ二階の北側に長四畳があり、そこが保の勉強部屋になっていた。襖をあけようとし
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