思う、どんな必然があるというのだろう。
伸子は、生れつきのうちにある人なつこさや子供らしい信頼や大まかさを、日常生活の細目はみんな素子にまかせきった今の形にあらわして生活していた。男のように口をききながら、実際のこまごましたことはみんな自分でとりまかなわなければ気のすまないきわめて女性的な素子にたよって、伸子は小説をかきつづけて来た。
「伸ちゃんという人は、一体どういう性格なんだか、私には理解出来ない」
老松町へ家をもったとき、訪ねて来た多計代が、あとから苦々しげにいった。
「まるで、吉見さんという人が、旦那様みたいじゃないか、一から十までお前に命令してさ。経済だって、あの様子ではどうせ吉見さんが支配しているんだろう。一旦信じたとなると、伸ちゃんは盲目だ」
伸子は、苦笑いした。伸子は二人の家計の一切を素子にやって貰っていたし、自分の収入も自分でもってはいなかったから。
「いいのよ、私より上手で、すきな人がすればいいのよ」
小説の綴じあわせを読んでいるうちに、伸子の表情に濃くなりまさるかげは、この平穏な郊外の女ぐらしの家に流れる生活について、伸子の心にいつしか芽ぐみはじめた疑いが
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