あるからであった。
 あまり永くしん[#「しん」に傍点]としていたのに心づいて、急に不安になったように、
「ぶこちゃん」
 となりの部屋から素子が声をかけた。
「いる?」
「――いる」
「斎藤へ筍ほりによこせっていってやらないと、またあとで細君がうるさいね」
 その家は斎藤という軍人のもち家なのであった。
「……そうね」
「あしたでも、とよに持たせてやろうか」
「それがいいかもしれない」
 素子にその感情をかくすというのではなく、伸子はおだやかに、言葉すくなく襖越しの応答をした。地平線のかなたにひとかたまりの雲が湧き出した。青く晴れた空のひろさにくらべて、その雲のかたまりはごく小さくて、それを吹き動かす風も立っていないとき、その雲のかげについて、伸子はなんと話すことが出来るだろう。柘榴の幹をすべって、細かいその葉を梳きながら、郊外のごみのない日光が芝生にひろく射している。陽の明るさに向って瞳をほそめながら、伸子は頬杖をついたなり、じっと心の地平線に見えはじめている小さい雲のかたまりを見つめた。

        六

 土曜日の午後のことであった。
 伸子たちのすんでいる駒沢の奥の家の
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