に来ていた。
「うちでなく……」
「遊びに来たいっていうのに、ことわれないよ」
「ただ遊びに来るだけはいいけれども」
素子は、しばらく伸子の顔を見ていたが、
「そうか」
といった。
「――東京じゃ、自然聰さんがとりもち役になるさ」
おつまさんからの手紙をもって、素子は自分の机の方へ立って行った。
五
素子の大きい勉強机の上に、厚ぼったい洋書が、終りから三分の一ぐらいの頁をひらいてのせられていた。頁の上には、鉛筆でところどころにアンダ・ラインがひかれてい、書きこみがつけられ、本の角は少しめくれかかっている。松屋の半ペラ原稿用紙の書きかけが並べておいてある。
となりの六畳の、洋風机の根っこの畳に坐って、伸子は新聞をひろげていた。芝生の庭の真中に、先住の人の子供たちがこしらえた土俵の跡があり、そこだけまるく芝がはげている。門と庭との境には、いかにも郊外分譲地の家らしく垣根がなくて、樫だの柘榴《ざくろ》の樹だのが、門から玄関へ来る道の仕切りとなっている。伸子が新聞をひろげているとこからは、丁度その柘榴のあたりから、庭の端の萩のしげみが見えるのであった。動坂の家のよう
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