ッションに頭をもたせかけるようにして、はしりすぎる街の風景を見ていた。素子もひどくくたびれて、同じようにうしろへ頭をもたせかけ、目をつぶってタバコをすっている。
 青山の大通りをはしっていたタクシーは前をゆく電車と、板を積んだ荷馬車とに行手をさえぎられて、不機嫌そうにスピードをおとし、徐行しはじめた。伸子のかけている側の窓からは、すぐそばに歩道が見え、そこに、ちらりと、うなぎ屋の紺ののれんが目に入った。そののれんに橋本と白く染めだされている。クッションにもたせかけた頭の位置はそのまま、伸子はじっと刺すようにそののれんに視線をすえた。このうなぎ屋を伸子は知っている。よく知っている。佃の妻であったころ、急にお客へ食事を出さなければならないとき、伸子は台所口から前かけ姿のまま出て行ってはこのうなぎ屋へ中串やどんぶりを註文に来た。佃の家のある裏の通りから、ここへ出る角は時計屋で――昔のとおりの順序で、伸子の乗っているタクシーの窓に、二人の天使が舞いながら、時計盤を吊りあげている青銅の飾《かざり》時計がおいてある時計屋のショウ・ウィンドウがあらわれて来た。この時計屋から佃の家までは、裏をまわって
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