わたくし、ロシア語はできません」
「しかし、サッサさんは英語話しますから不便ないでしょう」
 素子が、いそいで、とりなすようにいった。
「そう、ソヴェトでもこの頃は英語がはやっていますからね」
 パルヴィン博士は素子に、ロシア語をどこで勉強したかということや、誰が教授だったかときいた。そこへ、物かげになっているドアのところから、洋装した一人の日本婦人が出て来た。非常に小柄で、やせて、小骨の多い小鳥のようなからだつきだった。パルヴィン博士が、
「わたしの奥さんです」
と紹介した。
「どうぞよろしく」
 夫人は、スカートの前に両手をそろえて、ごく日本風のお辞儀をした。毎日あらゆる種類の人々を応待し、観察し、それを仕事として暮している婦人らしい笑顔と身ぶりで、夫人は博士のわきにかけた。この夫婦がならんでかけた光景は現実ばなれがしていた。灰色の大きい眼玉が黄色っぽく溶けかけている巨人のような外国人の主人。やせて、小さくて、軽くて、油断のない鶸《ひわ》のような日本人の細君。背景をなす部屋のつくりが、がっしりとして宏大なために、夫婦の対照はひとしお目にたった。
 パルヴィン博士は、
「ヴィザ、じき
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