んだ壁紙のはられたその広間の中央に大形の円テーブルがあって、その上に、家庭的な展覧会というように、ソヴェトから刊行されている種々の雑誌、新聞、書籍が並べられている。その奥の、もっとうす暗い、どっさり額のかかった室から、背の高さも、腹の太さも見上げるばかり大男のパルヴィン博士が出て来た。腰をかがめ、小人にあいさつするように伸子たちに握手した。灰色の上にすこし黄がかってドロリとした大きな二つの眼が愛嬌の笑いを下まぶたのしわにまでたたえながら二人の女の上にすえられた。伸子はその眼をみると、頭のどこかがジーンとするような途方にくれた気がした。霜降りの背広をきて、話のあい間には、両方のひじをふりひろげるようにもみ手をまじえるパルヴィン博士に、主として素子が日本語で旅行についての計画を話した。パルヴィン博士は、ロシア語と日本語とちゃんぽんに話し、素子に向って、
「あなたのロシア語は正しいロシア語です」
と日本語でいった。
「あちらに行けば、発音はじき立派になりますです」
 そして伸子をかえりみ、
「あなたは? ロシア語わかりますか?」
 ちょっと、名刺の面を見て、
「サッサさん?」
といった。

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