ない伸子の服装のことで、多計代はその相談を同窓生であり、つい先頃までペテルブルグに暮していた大使夫人のところへもちこんだ。そこには、最近フランス人を母にもった若夫人が嫁入って来ていた。その若夫人が相談相手になってやる、ということで、伸子は、一時間半も俥にゆられて、その家へ行かされた。そして、長椅子の上に華やかなクッションがどっさりおいてある客間で、お召の袖口に、重そうな金のくさり細工の腕環を見せている夫人に応待され、若夫人につれられて、レースの被いのかかったダブルベッドと衣裳箪笥でいっぱいになっているその夫人の寝室で、洋服の下縫いの検分をされた。半ばフランス人であり、半ば日本人であり、その半ばフランス人であるという面を優越として意識している美貌な若夫人のじっと見つめる視線の下で、遠慮ぶかく着物をぬぎ、むき出しになる伸子は自分の肩がやけどをするようにせつなかった。
自分の好みとはちっともあわない大きい縞リボンの結び飾りが三枚の翼のようにつっ立っている帽子をかぶって、伸子はヴィクトーリアの港についた。そこの街を歩いている一人の女も、伸子のかぶっているような帽子をかぶっている女はなかった。
前へ
次へ
全402ページ中371ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング