りがとうございました」
自動車が麻布の通りをいい加減進んだとき、伸子は父に改めて礼をいった。
「ほんとに一安心したわ。――でもなんて、簡単なんでしょう」
「なにが?」
「いろんなことが――ああいう人たちって、あんなになんでも簡単にいくのかしら……」
「まあ、簡単にゆくところがあるだけ、一方でたいしたところもあるだろうさ」
「――お嬢さん、お嬢さんていうんだもの」
伸子は苦笑した。しかし泰造は案外真面目で、
「だってお前はミス佐々じゃありませんか」
と云った。
「それゃそうだけれど……」
お嬢さんとよばれることに、伸子はミスという意味よりもっとちがった内容を感じるのであった。面白い小説をかいてくれ、といわれることにも、返答にこまる心持がした。藤堂駿平が、在来の政治家と非常にちがった自由な寛濶な雰囲気をもっていることは伸子にもわかった。けれども、ああやって堂々として椅子にかけて話しているときの、近いようで遠い、わかったようで全く互にわかっていない感じは、何と変だろう。
伸子は、はたちのとき父につれられてニューヨークへ行った。その仕度の時のことを思いおこした。子供の時しか洋服を着てい
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