伸子はその帽子をぬいで、市中見物のために乗っていた馬車の足もとへつっこんだ。伸子はニューヨークにいる間、自分がその手から手へとわたされそうだった親たちの環境とその関係から急速に自分をひきはがそうと必死だった。佃と結婚したことは、伸子を完全に別の世界のものとし、品位のある人々の環境から離脱したものとした。一年前にひなびた伸子に衣裳の世話をしてくれた大使夫人は、伸子がニューヨークから帰って挨拶に行ったときは病気中だからといって会わなかった。この夫人の良人であった大使は、ペテルブルグから日本へ帰ったとき、新聞記者の問いに答えて、当時ケレンスキー内閣のあったロシアに別の革命はおこらない、と予想を語った。ところが十月革命は、それからほんの半年ばかりあとに成就した。伸子はそのとき、大使というような事情通が、こんな大事件について実際にはわかっていないのに実にびっくりした。それらのことがまざまざと思いおこされた。それは、伸子のニューヨーク行きさわぎの一年ばかり前のことであったが。――
 こんどは計らず藤堂駿平の一つの力をかりることになった。藤堂駿平が面白い小説をかくようにという、それにたいして返答に困
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