ら、
「それゃそうでなくちゃ、伸子が困りますよ」
と云った。
「あのひとはロシア語が専門なんだろう」
「ええ。吉見さんは事務所の方へ伺いますって。よろしくって……」
多計代は、黙って考えていたが、
「まあ、伸ちゃんも、そうやって自分の力で行けるというなら、どこへ行くのも御自由だし、いろいろのところへ行ってみるのもためになることなんだろう。それゃ結構だけれどもね……」
一転して、多計代は事務的な調子で、裏書について、伸子が父に求めている援助の内容をきいた。
「なるほどね、それで大分話がわかってきた……なんだろう? その裏書のことでは、吉見さんの分もいるんだろう? どうせ伸ちゃんのことだから……」
「両方出来なくちゃ意味がないわけよね」
「お前、吉見ってひとの責任まで負えるのかい? あとで困ることになりゃしないのかい?」
「困るって?――」
「吉見なんていったって東京じゅうに知っているものなんざ一人もありゃしませんよ」
吉見素子が、伸子の旅費も出来たら自分で工夫しようとしていたと知ったら、多計代はそれにたいしてなんというつもりだろう。伸子は、腹のたつ気持を抑えたぎごちない低い声で、
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