多計代は、しばらく会わなかった伸子を、しらべるように上下に見た。
「どうしているの?」
「――きょうは、ちょっとお願いがあって来たところだったの」
「へえ……」
 父ひとりのつもりのところへ伸子が来て、何をたのもうとしたのだろう。多計代は、あらわに、そういう表情をした。
「何の御用かしらないけれど、わたしは、ちょいと着物を着かえさせてもらいますよ」
 いれちがいに、響く足音をたてて、兵児帯をまきつけた泰造が入って来た。
「どうです!」
 伸子に向って、泰造は握手するように手をさしのべた。
「たいしたことになったじゃないか」
 黙ってさし出された父の手を執って、伸子は甘えるような、ばつのわるいような笑顔をした。電話口で父とその話をしたとき、それからあの角でクラクソンの音をきいたときまで、伸子は自然な亢奮でよろこび、素晴らしいでしょ? お父様。だから行けるようにしてね、という心もちで急いで来た。多計代が偶然かえり合わせたことは、伸子の単純だったこころもちを複雑にした。
「それで、どういうことになってるんだい?」
「旅券はおりたの。裏書だけのことなんだけれど……」
「それゃ早速、あした
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