とする気がした。ごたついた玄関の様子で、父が加減でもわるくして帰ったかと思った。いそぎ足で車まわしのところへ来たとき、踏石から玄関の間へあがってゆく白い足袋が見え、鶯色の単衣羽織の裾がちらりと目を掠めた。その車で帰って来たのは、多計代であった。伸子はとっさに、一人で来てよかった、と思った。
 玄関のところに、車から出した手提袋やトランクがのこっていて、踏石に父の靴もぬぎすてられてある。伸子は、膝かけをたたんでいる江田に、
「一緒におかえりになったの?」
ときいた。
「はい。旦那様も上野駅へまわってお迎えしてかえりました」
 多計代は着いたなりの服装で食堂のいつもの場所に中腰で、早速大きいコップにレモンの切れの浮いた水をもって来させているところだった。多計代の帰京は急なことだったらしく、うちじゅうに特別なざわめきが感じられた。
「おかえりなさいまし……クラクソンが角のところできこえたわ」
 伸子は、そういいながら、母のわきに自分も中腰になった。
「じゃあ知らなかったの?」
「しらなかったわ」
「――あした隅田さんの御婚礼にどうしても出なけれゃならないもんだからね。急に帰って来たってわけさ
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