ている伸子に向っていった。
「無理のないところがあるのかもしれないんだ。むこうとすれば、そもそも日本というものにたいしては用心ぶかくなるわけもあるだろうしさ」
そういわれれば、伸子にもわかるところがあった。日本の政府は一九一七年からシベリアへ出兵して、ウランゲルやコルチャックとともに、ふるいロシアがソヴェトに変ってゆく道を妨害しつづけた。国交が回復したのは、伸子たちが老松町からその郊外の家へ引越して来た時分のことであった。そういう角度からみれば、伸子たちが通り一ぺんの手続で裏がきを求めて提出してある旅券が、何とはなし積極的になれない手にとりあげられ、うちかえして眺められているという状態も推察された。
「わたしたちの立場というものを、ありのまま出して、しかしやっぱり無いよりはましという風な紹介者があると一番具合がいいんだがねえ」
「そうだわ、もし紹介者がいるんなら、そういうのでなければいけないわ」
伸子は、もとより自分の身辺にそういう外交上の響をもつような知人をもっていなかった。自然父の知友の間に物色するわけであったが、役所がきらいで民間の建築家になった佐々泰造が官僚の間にそういうと
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