では、その理論を語っている篠原蔵人のような人々は特別で、大体労働者出身の作家か、貧乏の生活をしている作家でなければ、発言権をみとめられていないように、伸子の目にうつった。そして実際、伸子のかくものなどは、それらの人々から全く無視されていた。
 それらの人々に認められようと認められまいと、伸子は人間として、女としての自分がこの人生に発言したいものをもっているのを感じた。自分の生きかたを帳消しにする気がなかった。どっかで、何かの理窟にひっかかって止ってしまうつもりなら――それならどうしてあんな思いをして、追いすがる佃の顔をこの手でつきのけるようにして、あぶら汗でつめたくぬるついた佃の顔の感覚が、それをつきのけた自分の手のひらから今だに消えきっていないほどの思いをして、佃との生活をふりもぎって来たろう。
「わたしね、だからソヴェトへも行ってみようと思うの。そこで生きてみたいの。いいことも、わるいことも、みんなこの目でみて、このからだであじわいたいの」
 一方からは楽土のように語られ、一方からは悪魔の巣のように語られているソヴェト同盟のほんとの生活の日々のなかへ、自分の眼と心とで入って暮してみ
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