うものについて全く無智で暮している場合でも、動かせない現実として存在する。そういうところを読むと、伸子にも、ぼんやりと、リャク[#「リャク」に傍点]に来た青年たちと自分との第三者からみた立場のちがいが、どういうことになるかわかるようにも思えた。伸子は、自分というものが、社会の階級では中産階級という不安定な階級に属す一人の女だということを理解した。自分の仕事をもって、独立の経済で生活しているにしろ、中産階級・小市民という階級に属していることにかわりはなかった。そして、その中産階級というものは、ますます寡頭化してゆくブルジョアジーと勤労階級との矛盾の間にはさまって動揺しており、歴史の発展の中で新しい任務をもちはじめている勤労階級と利害をともにする立場にうつるか、さもなければ、本質的な発展を阻まれたままふるい支配階級とともに歴史のなかに消耗されてゆくしかない階級として、示されているのであった。
「そうなのねえ。だから、動坂でいくら自動車を買って、どうかなった気でいたって、結局のところやっぱり、けちくさいんだわ。大戦で郵船会社が大儲けしたから、建築家だってあのビルディングを建てたんだもの――」
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