そう云っているうちに、伸子は建築家である父が、しばしば娘の伸子に向って、依頼者の註文づけが不愉快だと話していたことを思い出した。方眼紙でできている父の手帖には、実際に建てる家やビルディングの設計図のほかに、それを考えているうちに浮んで来たいくつもの架空の設計図が描かれてあった。椅子にかけた泰造が、その膝のところにくっついて低い腰かけにいる伸子の手をとってなでながら、よく、想像(イマジネーション)を発揮しなさい。と、それを日本語でいうより英語でいうと一層そこにゆたかさが思われるようにいうのを思い出した。そういうとき伸子は、
「お父様のイマジネーションずき!」
と笑った。社会のしくみがいくらかわかって、建築家としておかれている父の立場が察しられてみれば、父のイマジネーションずきには、決して実現しない建築家としてのあこがれがひそめられているのを知った。それを思いやらず、無頓著にただ陽気そうに笑っていた若い女である自分の笑顔の上に、伸子は無智からくる厚かましさをみとめた。それは伸子に自分への反感をつよく感じさせた。
食うための苦労をしたことがないということで、伸子は作品に関してまで悪口を
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