ンナがモスクワへ来てはじめて夜会に出かけた晩の美しさ。そしてまた、ウロンスキーと恋愛におちいったのち、良人カレーニンの書斎で、女としての解放を求めて冷血なカレーニンに迫ってゆくあの生命に溢れ、必死な真実に燃えたった情景。ああいう風に、まざまざと人間とその生活とがたぎっている小説がかけたら、と思いこんでいるのぞみのなかで伸子には、ブルジョア・リアリズム、プロレタリア・リアリズムという区分の意味がわからないのであった。
「どっちみち、ほんとにちゃんとした小説がかけるようになりたいわ、ねえ。それは同感でしょう?」
伸子は、つよい憧れを顔にあらわして云った。
「プロレタリアの生活もブルジョアの生活も、ひっくるめたようなリアルな小説がかきたい。社会はそうして動いているんだもの――リアリズムって云うのも、そういうもんじゃあないのかしら……」
「…………」
ウメ子はちょっと伏目になったような真面目な表情で、自分の意見は云わず伸子のいうことをきいた。しばらくみんな沈黙していると、素子が、男のように腕をくんでいた片手でパイプを口からとりながら、
「われわれには、階級ってものがよくわかっていないから、
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