どうもすべてはっきりしないのさ」
と云った。
 伸子は、ほんとうに眼を大きく見ひらいてそういうことを突然云い出した素子を見た。素子が、そんなことを云う。――全く思いがけないことだった。
「……あなたはわかっているの?」
「そうはっきりわかろう道理がないじゃないか。けれどさ――どうも、そういうものらしいというのさ」
「…………」
 いつの間に、素子には、そういうことがわかったのだろう。この間京都へかえっていた間も、素子は祗園のおつまはんのところで夜明ししたりした。帰ってからも日常のこまごましたことに関心を示して、すべては相変らずに見えるのに、その素子から自分たちの生活の中では云われたことのなかった階級というような言葉が云われた。これは伸子をおどろかした。軽薄というところがないウメ子が、黙って素子を眺めた目の中にもそのおどろきが映っている。伸子は、からだをよせてゆくような調子で素子にきいた。
「どこで、そんな勉強してきたの?」
 素子は、顔をあかくし、例の、顎を下からなで上げる手つきをした。
「うちじゃあ、いつもぶこちゃんだけが物知りでなくちゃならないってわけもないだろう」
「意地わる云わ
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