面ばかりつよく感じられて一層伸子の理解が戸惑わされた。
 伸子は、そのとおりを浴衣のひとに話した。
「なるほどねえ――そういう風なものかな――しかしわかりますよ」
 力を入れて、くりかえした。
「あれが、わからないなんてことはないはずだ」
 そして、いくらかむっとしたように、
「それは君がわざとわかろうとしないんだ」
といった。
「どうして?」
 伸子は縁側にしゃがんでいて、思いもかけない表情になった。
「どうして、わたしがわざとわかろうとしないなんて、あなたに、わかっていらっしゃるの?」
「…………」
「いま、はじめてお会いしたばかりだのに――」
「いや、いや、そういう意味でいったわけじゃない」
 伸子は、本当にそれがどういう人なのか知りたそうにまた、
「――あなたは、どなたなんでしょう」
とつぶやいた。しかし浴衣のひとは黙ったまま、手にもっている雑草の穂を指の間でクルリ、クルリとまわしていたが、やがて、吸いきったタバコでもすてるようにそれを足下にすてて、
「――どうも突然、失敬しました。いつか北條一雄の本はよんで見られるといいと思うな」
 そういって、伸子があいさつをする間もなく、
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