柘榴の枝かげに身をかわして、門の外へ出て行ってしまった。その白い浴衣の後姿に黒い兵児帯が伸子の目にのこった。

        二十三

 不意に柘榴の樹かげからあらわれて、伸子が一人で金魚鉢を見ていた縁側によって来た男は、何者だったのだろう。どういう意味で、北條一雄の本のことや篠原蔵人の書いたものについてばかり話して行ったのだろう。それらの本や論文について、伸子が、わざとわかろうとしないんだ、というようなことを、どうしてその白い浴衣のひとは云うことができたのだろう。
 素子が夕方帰って来たとき、伸子は、その不意な来客について話した。
「まるで知らない男かい?」
「知らないわ……」
「近所に住んでいるらしかった?」
「そうとも思えなかったけれど」
 素子は、煙草の煙が夕風に流れる方角を追うように庭に目をやっていたが、
「ここが流通なのも考えもんだな?」
と云った。門から玄関までの通路と庭との境に、垣根のないことをいうのであった。
「どうもこの節は、えたいのしれないものが頻々《ひんぴん》とやって来るね」
 きょうの不思議な客ばかりでなく、いつか来た三人の、よごれで光った青年たちのような若
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