ないのよ」
やせて、皮膚のあれている顎をすくうようにして、絢子はうなずいた。
「それはそうですわね」
絢子はなおひとりうなずいた。
「佐々さんは、やっぱり佐々さんらしくていらっしゃるわ……あがってよかった!」
すぐつづけて、
「でも、それは事実なんです」
と、もとの主題に戻った。伸子は困惑し、同時にいとわしかった。
「事実だとして、わたしが伺って、どうかなることなの?」
「ええ、なりますとも。あなたが私のいうことは事実だって証明して下されば、それで私は満足なんです」
相川良之介というひとは、何といろいろの角度から、いろいろの女に興味をもたれていたのだろう。多計代が示した好奇心も思いあわされた。伸子は、相川良之介が絢子にたいしていまいうような関心をもったということは、普通では信じられなかった。すべての点から。――たとえば、相川良之介がもっている清潔さへの好みにたいして、絢子の皮膚には汗のよごれが見えているというような点からだけでさえも。――
伸子は、本気になって、
「ね、絢子さん」
とよびかけた。
「ああいう有名な、ある魅力をもつ人が、内容のわからないああいうことをかくと、大変
前へ
次へ
全402ページ中294ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング