るっておっしゃいます」
伸子は、玄関へ出てみた。二三年会わなかったうちに、生活のやつれが濃くなり肩も骨だって見えはしているが、やはりそのひとであった。
「ああよかった、わたし、きょうはどうしてもきいて頂かなくちゃならないことがあるんですのよ」
犬歯の目だつ口もとで、伸子の上に目をすえていった。
「ともかくお上りなさいな」
玄関に立っている様子も、そこから座敷に入って来る絢子のものごしも、どことなく伸子を警戒させた。伸子は、客を北側の落ちつく小部屋の籐椅子へ案内した。遠藤絢子は、暑いさなかを歩いて来たのに、汗をふくよりのどの乾きの方がきついという様子に見えた。冷たい水をたてつづけにのんだ。そこに出ている団扇をとりあげようともしないでコップで二杯の水をのみ終ると、
「ああ、お会い出来てよかった!」
思いつめて遠方から来た気がゆるんだというように、椅子の背へもたれこんだ。酷暑だのに、白地銘仙の着物に友禅の昼夜帯をしめ、そのどっちにもたたみめがなかった。伸子は、
「なにか急に用があったの?」
ときいた。
「ええ是非きいて頂きたいと思う重大な問題があるもんですから……」
絢子は、伸子が
前へ
次へ
全402ページ中292ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング