てて戸車のころがる重いくぐりの網戸をあけて、伸子は土蔵へ入って行ってみた。入ったところの板じきには、古椅子だの屏風箱だのが積まれ、東西についた窓が大きいから内部は明るいけれども、永年の間につもった塵のにおいがしている。西側の隅に鍵のてに手すりがあって、そこのあげぶたがたたまれ、半地下室への階子口《はしごぐち》があいていた。伸子は、その辺にはなおどっさりつもっている塵をそっと草履でふみつけるようにして歩いて、その階子口へ行き、少しのぞきこむようにして声をかけた。
「保さん、いる?」
へんじがなかった。
「いないの?」
しばらく耳をすましてもシンとしているので、伸子は足もとに気をつけて、いくぶん前下り気味の工合のわるい階子を二三段下りて、下をのぞいた。半地下室には、湿気どめのために真黒くラック塗料をぬられた太い角柱が幾本も立っている。その柱と柱の間の東よりの窓下に保の勉強場が出来ていた。製図板をのせる脚高台に、大形の製図板をのせ、その前に木づくりの大きいひじかけ椅子があった。本やノートがすこしその製図板の上にちらばっている。半地下室の東と西とにも半分だけ地面に出た窓がしきってあって、そ
前へ
次へ
全402ページ中282ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング