った。もしかしたら、保は、多計代と伸子との一致点の見出せないいい合いに食傷して、何につけ議論したりすることの嫌いな若ものになったのではないだろうか。伸子は、保が、姉の生活態度のすべてに同意しているのではないことも改めて考えた。伸子が家を出てから佃が入院していたことがあった。そのとき、保が、一人で自分が咲かせた花をもって幾度か佃の見舞に行っていた。ずっとあとから、多計代からそのことをきかされた。
「わたしは保さんのような生れつきでないし、一緒にすんでいるのでもないから、心配したって保さんの役には立たないのかもしれないわ。でもね、……保さん、あなた本当に何でも話し合える友達、あるんでしょう?」
「沖本なんか、今でも時々会っているし、いろいろ話す」
「ああいう人じゃなくさ!」
 伸子は、もどかしげに力をこめて、大柄だがなで肩で、筋肉のやわらかい保の温和な顔を見た。沖本は中学時代の友人で、地方に病院長をしている父親は上京するごとに、保を招いて息子と帝国ホテルのグリルで御馳走をした。佐々夫婦と自分たち夫婦とが二人の息子を挾んで会食したりした。そういう雰囲気の交際であった。
「高等学校って、わたし
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