がよけいそう思うのかもしれないけれど、一生つき合うようなしっかりした親友が出来る時代なんじゃないの」
「…………」
 保は、こまかいふきでものが少しある生え際を、まともに電燈に照らされながら、大きい絣の膝をゆすっていたが、やがて、
「僕のまわりにいる連中って、どうしてあんなに議論のための議論みたいなことばかりやっているのか、僕全く不思議だ」
 述懐するようにいった。
「だって――それゃそうなるわよ。一つの問題が片づかないうちにまた次々と問題はおこるんですもの……」
「そうじゃあないよ」
 独特のあどけない口調で否定した。
「ただ自分がものしりだっていうことや、沢山本をよんでいることを自慢するためにだけ議論するんだもの、皆をびっくりさせてやれ、というように、むずかしいことをいうだけなんだもの……」
「そうかしら……そういう人もあるだろうけれど……」
 伸子は椅子の背にもたれ、少しやぶにらみになったような視線で保をじっと見守っていた。そして、思い出した。それは、保が赤い毛糸の房のついた帽子をかぶって小学校へ通いはじめた、二年生ぐらいのことであった。多計代が、おどろいたように、崇拝するように
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