かった。忘れたころになって伸子は、ひとりごとのようにいった。
「相川良之介というひとが、芸術家だったことだけはたしかだわ……ああいう風に友達からおくられることができるんですもの……」
 伸子の記憶のなかに、軽井沢で死んだ武島裕吉の葬儀の日の光景がよみがえった。式は、麹町辺にあったそのひとの大きい邸宅で行われた。鯨幕をはりめぐらした玄関から、故人の柩の前まで、更にそこから出口まで、白布がしきつめられ、柩の横に、礼装の親族が立ち並んでいた。そこには、幼い二人の遺児もつらなっていた。静かに動いている弔問者の列に加わって歩きながら、伸子は、作家武島裕吉をじかに感じられなかった。重大な儀式がとり行われるような場合にことに際だってあらわれるその家の格式のきびしさが、万端にみなぎっていた。それは、古風であるとともに世俗的であり、そういう雰囲気のうちで、葬送される武島裕吉の感傷的に柔かい相貌が映されている棺前の写真を眺め、焼香するとき、伸子はつい涙をこぼした。武島裕吉が生きつづけられなくなった生活環境の矛盾そのものが、上流人らしい老若の顔々となり、威儀を正した喪装のそよぎとなってそこに立ち並んでいた。
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