、わき目をふらない気持を感じさせた。それは、伸子に好感をもたせるものであった。だのに、もし、伸子が何かの機会にその感想を彼につたえたとすると、相川良之介は、少くともそれにたいする返事としては、また伸子にとって真偽のわからないような逆説をはくであろう。普通のことばで物がいえないひと。そのために、軽蔑する自分のエピゴーネンからつきまとわれずにいられなかった人。偶像と教師になる愚劣さをしんから軽蔑して、いくつかの小説にそのこころもちをかいていながらも。――
 伸子は自分の机のところへ、その朝の新聞をもって行って、ひとりで見ていた。新聞の写真の上に目をおとし、自分とほとんど同じ頃文学者として出発し、声名を博し、僅かの年長で生涯を断って逝ったひとのことを思いつめると、伸子は、また、刃の鈍い桑切庖丁のようなもので隈なくからだを刻まれるような苦しみを感じた。機智をつくし、知的な精緻をこらして自分の生活と文学とをもって来た相川良之介が、「ある旧友への手紙」で、こんなに淳朴に、若々しく、流露する心情を語っていることに、伸子は涙を抑えようとしても抑えかねた。「ある旧友への手紙」でだけはこう書くしかなかった
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