相川良之介の人間としての一生にたいして恐怖と感動があった。どの写真も、相川良之介といえばその知的な風※[#「耒−人」、第3水準1−14−6]を標榜して、額におちかかっている髪や、敏感な口もとや、じっとこらされた眼に焦点をむけているのであるが、相川良之介の、やや上眼にこらされている瞳のうちには、知的で硬い自足したような辛辣さはちっともなかった。それは温和とはちがった柔軟さ、聰明というものの本質的なしなやかさでかがやいていた。憎らしく押しづよいものはどこにもなかった。写真のその眼を見て、中学生でも最後の思いには書くであろうような「僕は誰よりも見、愛し、且つ理解した。それだけ苦しみを感じたうちにも僕には満足である」という文章をくりかえして読んだとき、伸子は、相川良之介に代表された人の心というもののいじらしさにふるえるようになった。そして、丸めて口に当てたハンカチーフから声をもらして泣いた。
二十
大きな音をきいたあと、耳のなかが変にカーンとして、自分の声もひとの声もよく聴えないようになる。相川良之介の自殺を新聞で知ったあと、伸子は心理的にそういう状態に陥った。朝おきてか
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