諷刺小説であった。心情の噴出による諷刺であるというよりも、相川良之介らしい、知的な諷刺であった。それは、伸子にちゃんと理解されない部分があったし、理解される部分にたいしては、そのビイドロの破片のように鋭くひらめく知性を、例によって懐疑した。
そのようにして、佐保子の画帖に河童図の描かれたのは二た夏ばかり昔のことであった。伸子は、自分がさしずにまかせて、いとどしく、という文章を書きうつさなければならなかったその宵の切ない心持を思い出すよりもしばしば、そして、その度に考えこむ気分に誘われながら、相川良之介が、あんなにむき[#「むき」に傍点]に、人目から画帖をかくして、描いていた姿を思いおこした。人々の視線の下に一筆一筆をさらして描くようなことをしなかったのは、いかにも相川良之介らしく思われた。それから、自分の描くものは、どれ一つにしろ最上の出来栄えであろうと欲する心持も。伸子は、何かの文章で相川良之介が、僕はあらゆる天才にならわんとするものなり、といっていたのを思った。画帖を人目からかくし、あんなに本気で一つの河童図をかいていた相川良之介の様子は、伸子にかえってそのひとのうちにある一途な
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