た。素子は、こんどは、本当にひとりでも行く決心になっているのだ、と。そして、素子がひとりで外国へ行くようなことが実際におこれば、伸子とこうして暮して来た生活の形は、根本からちがったものになってゆくしかない。素子にはそれもわかっているのだ。伸子は、一層複雑なこころもちになった。伸子が、二人の生活ぶりに対して日頃心にわだかまらせている様々の疑いを、素子は察していて、こういう形で自分の方から全生活を変化させようと考えているのだろうか。伸子は、いよいよわたしはどうするの? といいにくい心持になった。それは素子がきめることではなくて、伸子自身がきめていいことだと、思われているのかもしれなかった。
「とにかく、わたしにかまわず仕度した方がいいわ」
 伸子は、おとなしく、すこししょげていった。
「わたしの方には、お金のあてもないんだもの……」
「じゃ、この原稿を渡しちまったら、ともかく京都へ行って来る」
 いまにも椅子から立ち上りそうに素子はいった。
「万事はそれからのことさ」
 ――しかし、まるで唐突に生活が大展開した。……その夜、金魚の絵のついた団扇で蚊を追いながら縁側の柱によりかかっていて、伸
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