直さず、その文相であり、保はその学生なのだから。
 この春、前崎にある佐々のうちへ、大磯の別荘から、萬亀子夫人が遊びに来たとき、多計代はいあわせた泰造はもとより和一郎まで加勢させて、箱根へドライヴしたり、力をつくしてもてなした。僕、へこたれちゃった、袋もちさせられて。一分刈の頭でカラーなしの制服姿の和一郎は、その日じゅうおばさまの手提袋をもってあげる役にあてられたのであった。一方的な、多計代のそういう熱中や奉仕ぶりを思うと、伸子には、それがさもしくけちけちしたことに思えた。あきるほどちやほやされつけている大臣夫人を、多計代のような古い幼な友達までが、世間並の方法でさわぐのはばかばかしかった。
 痩型で、折襟のカラーをつけて、こがたい官僚風な大臣であるその政治家の顔を思い出すと、伸子は、おばさまである夫人の敏捷で悧溌な凹み眼と、うすく水白粉のはかれている顔や沈んだ色の紅をさした唇で、軽く、やや口早にげびない蓮葉さでものを云うときの表情を思いおこした。夫婦は、その夫婦らしい会話の間で、どんな風に、新聞に出た学生処分のことなどについて話しあうだろう。伸子は突然、あすこに息子はいなかったかしら
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