座敷にみちている。それは、伸子に非常に珍しかった。
「坐っていい?」
「ああ」
多計代は、ひろがっている新聞紙をたたんで鏡台のわきに伸子の坐るところをつくった。
「おはがきありがとう。かまぼこ、まだ大丈夫?」
「伸ちゃんの分は一本別にとってあるよ」
「そうお、ありがとう」
多計代は、いくらか目立ちはじめた白い髪を、黒いチックで塗り、かくしていた。そういう髪を結ったばかりの多計代の指には、ところどころ黒チックのよごれがついていた。耳にも掠ったような黒さが見える。伸子は、そこにあったちり紙で、母の耳の上についている黒いチックのあとを拭いてやった。
「前崎、よかったでしょう? この間、ちょっと事務所でお父様にお会いしたとき、随分よさそうにいっていらした」
「こないだうち、毎晩、なにをとっていたのか沖にずらりっと漁火《いさりび》が見えてね、ほんとにあの景色はきれいだった」
伸子は、複雑な意味をこめ、
「行ってよかった?」
ときいた。多計代は、それをごくあたりまえにうけて、
「例によって三四日眠れなかったけれど……いまあっちはいいよ。ああそういえば、伸ちゃん製材所のあったの知っているだろう
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