、内玄関を上りながら、やっぱり母が帰っている生活はちがうと、伸子はおどろいた。どこがどうともいえないしまりが家の空気についていて、留守中来たときの、あの吹きぬけの感じはなくなっている。家じゅうに、近ごろずっと無かった落着きがある。それは、多計代が前崎から帰って来て、割合うちに落ちついている気分を映している。伸子はうれしい気持で、食堂へ顔を出した。大テーブルの正面の多計代の場所はからで、紫しぼりの座蒲団だけがあった。
 伸子は、
「こんにちはア」
と、大きい声で叫びながら廊下を奥の方へ行ってみた。
「おかあさま、どオこ?」
「来たのかい?――こっちだよ」
 階段下の小座敷から多計代のへんじがきこえた。三尺の茶室風の襖の奥に四畳半がかくれ部屋のようについていて、そこに多計代の箪笥や鏡台がおいてあった。家じゅうでたった一つの炬燵の炉も切ってあった。
「いいの?」
「ああ」
 唐紙をあけると、鏡台の前に坐って、髪を結い終ったばかりの多計代が背中に白いきれをかけたなり、櫛をふいていた。前髪のふくらましのしんに入れる毛たぼを揃える新聞紙がわきにひろがっている。ひとりでゆっくり髪を結った女の気分が小
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