……」
「珍しくおちついているよ、ゆっくりいるがいいのさ」
「二人でいらっしゃるからいいのよ、きっと。お母様だって落着けるだろうし、お父様ったらひまがなさすぎるから駄目よ、東京ばっかりだと」
 事務所のあるビルディングの入口で泰造とわかれて伸子は動坂へまわった。
 門を入ってゆくとピアノの音がしていた。内玄関の方へまわって、女中部屋の窓の外を通る伸子を見つけて、
「あら! 伸子さまがいらした」
という声がした。ガサガサと急になにか包むこわばった紙の音がして、一人が部屋の戸をぱたんとしめた。伸子はそのまま上ってピアノの音がしている客間のドアをあけた。和一郎が一人で弾いているとばかり思ってあけたら、出まどの下の長椅子に、従妹の小枝がかけて、ピアノのよこに、和一郎の友人の松浦が制服姿で立って譜をめくっている。小卓の上に紅茶茶碗や空になった菓子鉢がとりちらされたままあった。
「あら、伸ちゃん!」
 小枝が来年女学校を卒業する、すらりとした姿で立ち上った。
「しばらく!」
「やあ、来たの!」
 和一郎も制服をきていた。松浦が、もちまえの几帳面な挨拶をした。
 これは、月曜日の午後として、伸子の想
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