車の時間があるから、切り上げるのにもかえっていい工合ですよ。たいてい七時すぎにはつくからね」
 食事のとき伸子は、半分ふざけて、
「そういえば、お父様、前崎のモーターどうして?」
ときいた。
「もういいの? 騒動なさらない?」
「うん、大丈夫だ」
 泰造は、よっぽどこりたと見えて真面目に答えた。
「ポンプやの計算ちがいで、結局二馬力のにして、やっとよくなった。はじめっから俺はそれでなけれゃあぶないといっていたのに――」
 事務所へかえる前、泰造は丸ビルへよって髭剃りあとへつける化粧水を買った。
「前崎でいるようなものないかしら。――わたし、これから動坂へ行くから、もしあったら届けてよ」
「何にもいりませんよ」
 泰造は例の、踵の音の高く響く足どりで横浜植木の店のなかをひとまわりした。あてにして見に入ったものがないらしかった。
「ないの?」
「出ていないね、きょうは。前崎の玄関のところの花壇にバラを植えようと思っているんだが……」
 バラというと、伸子は父の誕生日にもって行ったきれいな黄色と白のバラの花を思い出した。つづいて越智が思い出された。
「お母様いつ頃おかえりになる予定なのかしら
前へ 次へ
全402ページ中192ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング