形で屈辱の立場に自分をおくに耐えるなら、どうして、生活のために何か一つの職業が見つけられないということがあるのだろう。伸子は、黙ってまじまじと三つの顔を見た。ピーター・クロポトキンの「革命家の思い出」をよんだときの感銘が思い出された。クロポトキンはアナーキストではなかったろうか。クロポトキンの「ロシア文学の理想と現実」を、伸子は、二度三度とくりかえして読んだ。そこにはよりよい人生にたいして燃えるような意慾がたたえられていた。人生と文学とを、人間のそのような精神の華として語る真実と美しさとがみちていた。クロポトキンはアナーキストであった。そして、今、目の前に並んでいる三つの顔。その三つの若い男の顔は、一つ一つ生れた故郷はそれぞれにちがう田舎の相貌をもっているとともに、互いに共通な習慣的な虚勢でこちらをにらんでいる。だが、それは伸子に、これらの人々が、ただ自分たちをアナーキストと名づけているにすぎないような心持をおこさせるのであった。
伸子は、三人に向って丁寧にいった。
「どうか、お仲間の方たちによくいっておいて下さい、佐々伸子のところへ行っても金にはならないって。――」
一寸ひっこん
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