あった。
「けさ、前崎へみんなで行っちまったんだって……」
「結構じゃありませんか、そのくらいなら」
 そして、素子は皮肉に、
「たまには、われわれも、御招待にあずかりたいもんだね」
といった。
「…………」
「ぶこちゃんはたまさかいったことがあるんだろう?」
「二三遍は行ったかしら……」
 伸子が前崎へ行ったのはまだ家が出来たばかりで、門も垣根もない時分のことであった。昔の東海道に沿った松並木の名残りが生えている崖にふみつけられた細道をのぼると草がぼうぼうしげった平地に出た。そこに、ぽつりと一軒、瀟洒《しょうしゃ》なスレート屋根の佐々の家が建っていた。両親と伸子と手つだいのものは、一列になって草ぼうぼうの間をかきわけて進み、地境のしるしにめぐらされている竹垣の木戸もない間から入った。泰造が、ポケットの鍵束の中から、親鍵を出して、入口の堅牢なドアをあけた。そのときは、水をくみあげるポンプの電力モーターの馬力が足りないで、逗留している三日間、伸子と手つだい女とが草っ原を通って下りて行って街道の漁師の家から井戸水をもらった。
 箱根の連山が見晴らせるその家のヴェランダの椅子で、多計代は、そ
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