と時のうつりを計っている。伸子はその座にいたたまれない思いになった。激情的な多計代は、いつも対手が一番ひどいことをいわずにいられなくなるまで、感情を刺激し、駆りたてた。伸子も始終それにまきこまれて来た。しかし、今夜、伸子はその渦に巻きこまれず、不思議に悲しい鮮やかさで、この家庭の全情景を心に映しとった。
十二
翌朝、身じまいをおわって伸子が畳廊下へ出てゆくと、襖があいていて、泰造が一人洋服箪笥の前で、身仕度をしていた。
「お早うございます、もうお仕度?」
「ああ。よくねましたか」
泰造は、きちんと剃った顔をあおむけ、洋服箪笥の戸の裏についている鏡を見ながらネクタイを結んでいた。ホワイト・シャツの背中が鼠色フェルトのズボンつりの交叉の間に清潔にふくらんで、あおむきにのばしたのどの皮膚が、カラーのあわせめから顎へかけて年配らしくたるんでいる。伸子が一緒に暮さないようになってから、もう何年か、泰造は毎朝一人で、箪笥の前で身仕度をととのえて事務所へ行くのがならわしになった。多計代は、良人や学校へゆく息子の朝食の時間におきて来ないことが多かったし、出勤の身じたくも、帰宅し
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