て来たときの着がえも、伸子が覚えてから滅多に手つだわないひとであった。泰造は年来、朝はこうして一人で仕度して出かけ、帰って来て冬ならばストーヴの前においてある和服に、今ごろなら衣紋竹につるしてある和服に一人でさっさときかえた。お嫁に来たとき、あんまりおばあさまの焼餅がひどくて、お躾《しつ》けがよすぎたもんだからね。多計代は自分たち夫妻の習慣を、そういって笑った。
けれども、年とった夫婦である父と母とがあらそいをした今朝、父がやっぱり一人箪笥の前で身仕度をしているのは、いつもの通りでありすぎて伸子には気の毒に感じられた。伸子は箪笥の中についている小抽斗からハンカチーフを出して、上着のポケットに入れたりした。
「お父様、よくおやすみになった?」
「ねたとも、例によってたちまちですよ」
父の顔色は、ほんとに、昨夜もいつもどおり枕へ頭を置くやいなや、すぐいびきになったと告げている。顔色ばかりか、手帳と紙入れとを内ポケットへ入れる手つき、箪笥をしめてまた食堂へ戻ってゆく足どり、それらのどこにも、昨夜のもつれた気分の跡はなかった。もう今日一日の活動の一歩がふみ出されていて、その流れのうちにある
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