様は、本をよまない方だしね、越智さんはああいう真面目な人だし、すっかり話がちぐはぐになっちまって、お父様はさんざんだったのさ、それだけのことだのに……」
「またシュタイン夫人のことでもいったんじゃないの?」
「…………」
ほんのにくまれぐちと自分で知っていったことに、多計代は答えない。伸子は愕然とした気持で、母の顔を見た。多計代は白くふっくりとしたきれいな顎をひきつけて、衿もとにかかった白粉を軽く指さきではらっている。越智に対してつかみかかるような激しい言葉がほとばしりかけたのを、伸子はやっと自制した。伸子はそこに、はっきりと、父と母とそして自分にも加えられた屈辱を感じたのであった。父親似の丸い伸子の顔に悲しみが現われた。黙って立っている伸子に、多計代は、
「食堂へ行くんだろう?」
ときいた。
「ええ」
多計代は、どうやら伸子と一緒の方が工合よい風で、つれ立って食堂へ行った。
珍しく保が、友人と回覧雑誌を出す計画のうちあわせで夕飯にかえらなかった。父の好物な豆腐のあんかけが出来ていた。それは伸子の好物でもあり、多計代はおくれてかえる保のために、
「保様がお帰りになったら、よくあつ
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