どん入って食堂の入口へ行った。ドアはあいていて、出窓の白いレースが涼しく見えている。案の定、泰造が、セルのふだん着の腰にゆるく兵児帯をまきつけた形で煖炉を背にしたテーブルのきまりのところに坐り、巻紙を片手にもって、手紙をかいていた。伸子は、
「お父様!」
からだじゅうでよろこびをあらわしながら、廊下のところで、わざとトンと白足袋の足を鳴らした。泰造は六分どおり白い髭のある丸顔を、びっくりしたようにふり向けた。
「おや、よく来ましたね。さあこっちへおいで」
伸子は、父の坐っている座蒲団のはしに膝をつけるようにして坐った。
「どうなすった? お父様。この間、お誕生日にわざわざ花をもって来たのに――。黙って出張なんかなさるんだもの」
この間といっても、あのときからきょうまでには、もう二十日ばかり経っていた。
「うむ、あのときはね、急だったんでね」
「お帰りになったとき、まだバラがあった?」
泰造は、水牛の角でこしらえたトカゲの形の紙切りで巻紙をきりながら、
「あったようだよ」
そういうものの、はっきりとは思い出せないで、多忙な人らしいうっかりした調子で答えた。花から、伸子は、今ふん
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